REVIEW

料理はアートのように、国境を越え人々をつなぐー『世界で一番しあわせな食堂』

2021-02-13

 

フィンランドには、一度だけ訪れたことがあります。緑あふれるヘルシンキの街並みや、神秘的な力を秘めたヌークシオの森。
そのなかでも特に忘れられないのは、フィンランドをつなぐ空の色です。少し霞がかった淡いピンク色のグラデーションが、見渡す限り広がっていました。

映画「世界で一番しあわせな食堂」で映し出された空をみて、その時のことを思い出しました。
この物語の舞台は、フィンランド北部のラップランド。 “世界で最も空気がきれいな場所”と言われていて、本作の監督ミカ・カウリスマキはインタビューで 「夏を過ごすにはもってこいで、フィンランドの中でも特にこの土地のファン」と語っています。

物語は、ラップランドに「誰か」を探しに訪れたチェンが、村の食堂に足を踏み入れるところから始まります。
言葉も通じず、彼が探しているのが、人なのか物なのかもわからない状況。一人一人に礼儀正しくお辞儀をし、尋ねてまわるチェンを人々は不思議そうにみつめます。

そこで、チェンと村の人々を繋いだのが「料理」でした。食堂を営むシルカに代わって、彼がつくるのは中国の薬膳料理。最初は誰もが奇妙がって手をつけませんでしたが、そのうちチェンの料理は評判となり、彼の料理を目掛けて人々が集まるほどになります。

 

食べて郷を知る。料理は国境を超え、誰もが分かち合えるもの

料理は、その料理が生み出された土地の文化そのものです。暑い国では辛い食べものが主流だったり、その土地で採れる作物がふんだんに使われていることから、料理を食べるだけでその地域の気候、人々の気質、歴史までわかってくることも。

また料理は、アートや音楽と同じように、国境を超えて通じ合う方法でもあると思います。はじめはチェンの料理をみて顔をしかめていた村のおじさんたちも、次第にこの笑顔に。

料理を通じて村の人々と心を通わせていくことで、チェンの表情もみるみる明るくなっていきました。口下手な彼の嬉しそうな表情が見え隠れする、このシーンがとても好きです。

私たちも料理をつくる時、誰かに食べてもらえるとなると張り切ってしまうものですよね。食べる人だけでなく、つくる人も満たされる「料理」の不思議な力に改めて驚きました。

 

新たな出会いは、傷口に目を向ける”勇気”をくれる

時折さみしげな表情を見せていたのが、チェンの息子ニュニョでした。物語が進むにつれて、彼の心に大きな穴が空いていることがわかってきます。
食堂で出会った日から、かけがえのない存在となったふたりを、シルカは次第に母親のように見守るようになります。ラップランドの人々や自然に受け入れられ、その安心感からニュニョも徐々に心を開いて悲しみを乗り越えていくのです。

生きていれば、悲しいことや耐えきれないことも起こります。それをずっと消化できずに抱えたまま、気づかないようにして過ごしていることもあります。
その痛みと向き合うきっかけの一つが、新たな出会いではないでしょうか。新しく出会った人との対話の中で初めて、それに目を向ける勇気が湧いてくることもあるかもしれません。

繰り返されてきた「出会い」と「別れ」によって、今の自分はつくられているということ。
今の自分を受け入れてくれる人がいることの幸せ。

行き止まりで進めなくなってしまった人への、希望が詰まった作品です。
この物語とラップランドの雄大な自然に浸って、癒されてみてください。

 

 

世界で一番しあわせな食堂_ロゴ

2月19日から、渋谷シネクイント進富座フォーラム山形シネマ5KBCシネマシネマテークたかさきなど
全国の映画館で順次公開されます。

『世界で一番しあわせな食堂』
2021年2月19日(金) 公開
©Marianna Films
配給:ギャガ

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